G7閉幕、「決まらなかったこと」と「決まったこと」は株価にどう影響するか

日米欧主要7カ国首脳会議(G7サミット)が2018年6月9日午後(日本時間10日午前)、閉幕しました。

 

トランプ米大統領が途中退席したことにカナダのトルドー首相が不快感を示し、それに対してトランプ氏がツイッターで咬みつくなど、アメリカとその他6カ国の溝はさらに深まってしまいました。

今回のG7サミットでは「決まらなかったこと」が目立ち、株価への影響が心配です。

 

「G6」がトランプ氏の保護主義政策を緩和することに失敗したことは痛手です。
注意したいのは、鉄鋼、アルミ、自動車、海運の株価です。

 

ただ、G7サミットでは「決まったこと」もあります。

アメリカを除く6カ国は保護主義政策と戦うことで一致しました。

 

例えばこれが4対3に分かれたというのであれば、衝突のインパクトは測りしれませんが、1対6であればトランプ氏が落ち着くまで待っていればいいだけ、ともいえます。

 

いわば「安定した航行を続けている船の上で小競り合いをしている」状態です。

 

 

またG7サミットの裏で、中国とロシアは緊密ぶりをしっかりアピールできました。

 

トランプ氏は中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領のことを「嫌ってはいない」様子なので、この3人が地政学リスクを減らす方向で動けば、日本株の上昇の重しが外れるかもしれません。

 

G7サミットで「決まらなかったこと」と「決まったこと」が、今後の株価の値動きにどのような影響を与えるでしょうか。

G7で決まらなかったこと

トランプ氏は米朝首脳会談を開くシンガポールに向かうため、G7サミットを途中退席。

 

その後、トランプ氏の代理を含むG7は「保護主義と戦う」という首脳宣言を採択して閉幕しました。よってこの瞬間は、G7が結束できたのです。

 

ところがこの後「ごたごた」が起きました。

 

ドルドー氏が「米国の関税は侮辱的だ」と発言すると、トランプ氏は、自分が退席した後に悪口を言われたことに腹を立て、ツイッターで「(保護主義と戦うと決めた)首脳宣言を承認しないよう指示した」と反論しました。

 

結局今回のG7サミットでは、アメリカによる鉄鋼、アルミ、自動車への関税引き上げを阻止することはできませんでした。

 

つまり鉄鋼、アルミ、自動車関連の各株価は、シンプルに警戒したほうがよさそうです。

 

またそれらの製品を日本からアメリカに運ぶ海運会社株も注意が必要です。

G7で決まらなかったことによる株式市場への影響

それではG7サミットの悪影響を受けそうな、鉄鋼株、アルミ株、自動車株、海運株の直近の値動きと1年前の値をみてみましょう。

 

単位:円 1年前
2017年6月
前月
2018年5月
2018年
6月8日
1年前比 前月比
鉄鋼 新日鐵住金(5401) 2,538 2,282 2,293 -9.7% 0.5%
JFEホールディングス(5411) 1,950 2,252 2,295 17.7% 1.9%
アルミ 大紀アルミニウム工業所(5702) 620 717 752 21.3% 4.9%
昭和電工(4004) 2,606 4,705 4,935 89.4% 4.9%
自動車 トヨタ自動車(7203) 5,893 6,921 7,480 26.9% 8.1%
ホンダ(7267) 3,064 3,447 3,517 14.8% 2.0%
海運 日本郵船(9101) 2,090 2,219 2,298 10.0% 3.6%
商船三井(9104) 3,300 2,878 2,896 -12.2% 0.6%

まずは2018年6月8日と、その前月5月を比較した「前月比」をみてみましょう。

トランプ氏の関税引き上げ政策はG7サミット以前から話題になっていたのですが、ご覧のとおり株価への影響は限定的でした。

 

特にトヨタは前月比8.1%も上昇しています。アルミ2社も5%近く上がっています。

 

そのうえで、2018年6月8日と2017年6月を比較した「1年前比」をみてみましょう。

昭和電工の「大化け」は除外したとしても、おおむね好調です。

 

新日鐵住金と商船三井は10%近く下落していますが、ライバルであるJFEや日本郵船は値上がりしているので、鉄鋼も海運も「大きな異変はない」といえそうです。

 

このことから「G7後ショック」が懸念される鉄鋼、アルミ、自動車、海運の各株価であっても、トランプ氏の言動に一喜一憂することなく、一般的な指標をウォッチして投資判断したほうがよい、といえるでしょう。

 

G7で決まったこと

今回のG7サミットでアメリカと6カ国の溝は深まりましたが、逆の見方をすれば6カ国の結束は固まったといえます。

 

G7のリーダーであるアメリカを否定してでも「保護主義政策はダメ」「自由貿易こそ世界経済を担保する」ことを確認したわけです。

「G6」がこの局面であらためて自由貿易の重要性を確認したことは、今回のG7サミットの大きな収穫と言えます。

 

また最近のトランプ氏の言動をみていると、言うことは大きいし突拍子がないし悪影響を及ぼすのですが、結果としては常識の範囲内に収まっています。

 

トランプ氏の関心は今年(2018年)11月の米議会中間選挙であることが、市場関係者に「バレて」います。

つまり、トランプ氏が日欧中の鉄鋼、アルミ、自動車を叩くのは選挙パフォーマンスでしかないのです。

 

日欧中の鉄鋼、アルミ、自動車に高い関税をかければ、アメリカの消費者が不利益を被るのは明らかですので、市場関係者は「中間選挙が終われば落としどころがみえてくる」と見透かしています。

 

また、中国、ロシア、インド、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、パキスタンの8カ国は、G7サミットが閉幕した6月9日に、上海協力機構(SCO)の首脳会議を開きました。

 

習氏とプーチン氏は、中ロが結束することを表明しています。

そして今回のSCO首脳会議にはイランのロウハニ大統領もオブザーバーとして出席しています。

 

トランプ氏は、アメリカがイラン核合意から離脱すると表明していますが、中ロはイラク核合意を存続させる方針です。

 

トランプ氏の言動が原油価格のマイナス要因であるなら、中ロの姿勢は原油価格のプラス要因といえるでしょう。

よって、原油製品関連株は注視したいところです。

 

さらに6月12日にはトランプ氏と金氏が首脳会談を開きます。

 

こちらも確かに波乱含みではあります。しかし2018年1月ごろは、トランプ氏は金氏に「俺も核のボタンを持っている」とツイッターで威嚇していました。

 

両首脳の挑発合戦に比べると、6月12日の米朝会談ははるかに「平和」への期待が膨らみます。

 

「とりあえずは」という限定つきではありますが、地政学リスクは減ると考える要素になるでしょう。

 

G7で決まったことによる株式市場への影響

いまの日本株には、日経平均23,000円台を回復するという大きな目標があります。

日経平均はこの半年、次のように推移しています。

2018年
  •  1月、23,098円
  •  2月、22,068円
  •  3月、21,454円
  •  4月、22,467円
  •  5月、22,201円
  •  6月8日、22,694円

 

1月の高騰(興奮)と2月の急落(落胆)以降は、つまずくことはあっても上昇基調に乗っています。

 

G7サミットでは、トランプ氏肝入りの米朝首脳会談の成功に向けて、他の6カ国も後押しすることで一致しました。

 

北朝鮮の非核化がスムーズに進むとは考えられませんが、しかし「悪化のほうには向かっていない」だけでも、近隣国の日本としては良い材料を考えるべきでしょう。

 

また原油の高騰も落ち着きを取り戻していますし、先ほど紹介したとおり、中国とロシアはイランの政情不安を望んでいません。

 

こうしたことから、地政学リスクも「悪化のほうには向かっていない」といえます。

これはどの業種の株価にもよい影響をもたらすでしょう。

 

まとめ

多くのアナリストが、年内にもう一度日経平均23,000円を試す局面が訪れると読んでいます。

 

トランプ氏の言動で市場が動揺し株価が下がったときに買い、市場が落ち着きを取り戻して株価が戻ってきたら利益を確定するといった短期的な投資が興味深いかもしれません。

 

ただ、2019年以降は景気の自然な循環として、アメリカを始め世界経済が落ち込むことが予想されます。

そうなると「2020年の五輪までは大丈夫」とする日本の景気観測も、そこまでもたない可能性もあります。

 

投資家は向こう2~3カ月の戦略と1年後の戦略と2~3年後の戦略をつくり変える必要があるでしょう。

 

その際、トランプ氏の「キャラ」を投資戦略にどう織り込んでいくかは、常に大きな課題になるでしょう。